「避難者」とのかかわり 〜支援のカタチ〜

座談会

連携から、”支えあう力”を育てる

東日本大震災と原子力発電所事故は、多くの避難生活者を生みました。さまざまな事情を抱える人たちを支える上で、どのような視点が必要なのでしょう。異なる専門性を持つ団体の活動者を招き、これまでの活動の成果や課題、今後の展望について伺いました。

  • 澤上幸子
    NPO法人えひめ311事務局長/よりそいホットライン被災者専門ラインコーディネーター。震災当時は双葉町在住。平成24年愛媛県内への避難者が中心となり『一人一人の心に寄り添い共に課題を解決していく』という理念のもとに避難当事者によるNPO法人「えひめ311」を設立し、県外避難者支援に携わる。
  • 岩村真奈美
    中央労働金庫総合企画部CSR企画チーフマネージャー。平成24年3月より中央労働金庫のCSR活動の企画・運営ならびに中央ろうきん社会貢献基金事務局を担当。避難者支援の助成制度の運営や、広域避難者支援連絡会in東京の参加団体として都内の避難者支援に携わる。
  • 福田健治
    福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN)共同代表。早稲田リーガルコモンズ法律事務所所属。「原発事故・子ども被災者支援法」の成立、原発事故被害救済(東京電力への賠償請求)等に携わる。主な著書に『避難する権利、それぞれの選択』(共著、岩波書店、2012年)ほか
  • 栗田暢之
    東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)代表世話人。1995年阪神・淡路大震災以降、現在までに約40箇所の地震・水害・噴火等の被災地で支援活動を行う一方、愛知県被災者支援センター長として東日本大震災における愛知県内の県外避難者支援に携わる。原発避難白書・編集委員。

これまでの避難者支援活動をふり返って

民の力を集結し、”避難“を支える”つながり“を構築

栗田
「東日本大震災支援全国ネットワーク(以下、JCN)」は、震災後すぐ、全国規模でNPOの力を集結しようと立ち上げた団体です。避難者の状況が刻々と移り変わるなか、全体像はつかみにくい。
そこで、支援団体を支援するための官民連携のネットワークづくりに奔走してきました。私自身は、阪神・淡路大震災で被災者支援に携わったことを契機に、平成14年に名古屋でレスキューストックヤード(以下、RSY)という団体を立ち上げ、防災分野での活動に取り組んできた経緯があり、その経験やこれまでに培ったネットワークがJCN設立につながっています。
澤上
えひめ311は、愛媛を中心に四国内の避難者支援をしています。震災後に松山市内で開催された交流会がきっかけで、その後も避難当事者による活動をしています。事務所に相談窓口を開設しているほか、チラシを配ったりしてつながった、約50世帯を年に3回ほど「おせったい訪問」をしています。農家から提供いただいたお米やみかんを持って、「支援」というより、親戚の家にでもおすそ分けに行く感じです。
福田
区域外避難への支援が遅れていることを懸念した東京や福島の弁護士を中心に、結成されたのが「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(以下、SAFLAN)」です。SAFLANの特徴は避難区域外の被災者の支援を中心にしていることです。避難するにしてもしないにしても、避難区域外の方には多くの葛藤や悩みがあった。そういう方々に「被曝を避ける権利、避難の権利」などを紹介したり、相談に応じると同時に、政策提言に取り組んできました。たとえば、平成23年8月に賠償の指針が出たとき、自主避難者は対象外でしたよね。そこで、区域外避難の問題を知ってもらうために、賠償請求書の一斉提出や、指針を策定する委員への働きかけなどを行い、少額ながら自主避難者にも賠償が支払われるようになりました。
岩村
中央ろうきんでは、営業エリアである関東1都7県に避難されている方々の団体や支援団体の活動を支援する「広域避難者地域活動サポート助成制度」をJCNと共同運営しています。被災地で、自治会などのコミュニティ活動に少額助成している例を知り、避難先での当事者グループの活動を応援するためにスタートしました。助成額は1団体あたり10万円が上限、平成26年度から実施していますが2年間で延べ57団体に助成しました。

避難者の「これから」に必要な支援

公的資源活用の限界を超え、「つなぎ手」として携わり続ける

栗田
課題は山ほど感じますが、1つには公的資金のしばりに関することです。たとえば、愛知県被災者支援センターは、昨年度から復興庁の予算で運営していますが、経費の使用用途に制限があり、戸別訪問の際にこれまで行っていたお米の提供が今年度からできなくなってしまいました。財源の性格によって、支援活動が限定されるという課題を抱えています。
澤上
私が相談員のコーディネーターをしている「よりそいホットライン」には、えひめ311では出会えない人からの相談がまだまだ絶えません。近くにいる人には言えなくても、匿名でかけられる電話だからこそできる相談があるのだと思います。もちろん電話相談だけでは解決できないことも多く、面談をしたり、ほかの社会資源への「つなぎ」として、役所などに同行支援することもあります。地域と「よりそい」を行ったり来たりしながら、少しずつ解決に向かえればと思って続けています。

自治体や社協とも協力し、「暮らし」の相談事に備える

岩村
JCNのアンケート結果では、社協からは「声があれば対応する」という回答が多かったそうです。これは一見すると受け身の対応に思えますが、私はむしろ希望があると感じました。当事者の声を集めれば、「こういう支援が必要だ」と言えるし、対応してもらえる可能性があるのですから。
また、「広域避難者支援連絡会in東京」の活動に参加していますが、組織としては踏み込めないこともあるものの、このネットワークを通じて支援者・当事者の生の声が聞けるので、自分の組織がどんな支援をするべきか考えるときに非常に参考になります。なんとかしたいという思いのある人たちがつながっていくことにこれからの支援の可能性を感じています。
栗田
震災から5年以上経ち、避難に直接関係ない課題が増えています。もともと暮らしぶりがラクではなかった人もいる。だからといって、「避難に関係ないことは知らない」とは言えません。避難者としてではなく、同じ生活者として接したいと思っています。
しかし先日、国際結婚で離婚した後、離れて海外に暮らしている子どもが日本に来たがっているけれどどうすればよいか、という相談がありました。日本語学校の紹介ぐらいはすぐにできても、どこにつなぐのがいいのか、なかなかわかりません。職探しならハローワークとか、一般的な窓口しか開かれていないのが現状です。
澤上
よりそいの相談でも支援者への不満をよく耳にします。すごい支援をしてくれると期待していたのに、一般的なふつうのアドバイスしかくれなかった、という不満なんです。
岩村
避難者の本当のニーズと支援メニューがマッチしていないのではないでしょうか。例えば、当事者で移住のための住宅購入を経験した方の話を聞くような機会が増えると良いのかなと思います。専門家など第三者の話は「情報」として必要ですが、避難者は自分の身に置き換えられるようなリアルな情報を求めている気がしています。

当事者に求められる「自覚」

栗田
この前JCNが開催した会議で、ある当事者団体の人が「避難者自身が自分の人生を考えないとダメ」って言われていました。そういう気付きは大事だと改めて思います。
澤上
困っている方って、自分の困り具合を実感してないことがあるんです。周りから見たら、すでに十分困ってるんですけど。いまの支援が永遠に続くと思っているんじゃないか、という気さえしてきます。
栗田
「一つひとつ課題を解決しなきゃ」と、本人が思っているかどうかで、こちらの対応も違ってきますね。
澤上
いま困ってる人って、いくつもの課題を複合的に抱えているから、1つの解決策だけではダメ。これからも粘り強く向き合っていく必要がある。結局私たちは、本人が「マズイ、困った!」と実感して相談に来るときに備えて、いろいろな情報を集めたりしているわけです。

行政や専門家との連携を深めるために

寄り添い続けるために、社会資源を担う人たちを巻き込んでゆく

福田
平成29年3月末に区域外避難者への住宅支援が終了することになり、多くの避難者が避難元に帰り始めています。帰還先での問題はきちんと考えておかないといけませんね。孤立化しないように、県や市だけでなく町村単位の応援窓口が必要でしょう。
各避難先で把握したある種「個別カルテ」のような情報を帰還先のNPOや社協と共有する仕組みがあるとよい。もちろん当事者の同意がないとできないことですが。
栗田
民間だけでは限界があるので、官と民の連携が必要です。ただし、「地域で連携」って言葉は心地いいけど、その言葉に惑わされてはいけないと思う。いわゆる社会資源が集結して、「何か困ったことがあったら言ってね」と言っても、当事者から声が上がることは稀。専門家の協力を仰げるとは言え、誰かがつながないといけません。誰がどういう手法で担い続けるのか、という問題が厳然とあるわけです。
福田
僕が言うのもなんですが、弁護士っていうだけでハードルが高いみたいですね。お会いした方に名刺を渡しても、改めて連絡をもらうことは少ないです。
澤上
確かに。本当に困っているときに、自分で弁護士に連絡するのは相当なパワーが要りますよ。福田* 情報が集まってくる団体とつながるのが大事だと思っています。郡山市で定期的に無料の法律相談会を開いているんですが、地元の団体の方が「弁護士さん来るから相談しなよ」って言ってくれてるんです。そうすると来やすいんですね。
弁護士の使い方としてお勧めなのは、話のわかりそうな人を一人でも見つけて、いつでも電話ができるような関係をつくること。また、弁護士会は行政とのつながりが強いので、意見を申し入れる先としてはとてもいいです。
栗田
地域を面で支えるために弁護士会の役割は大きいですよ。弁護士会という組織があることも発信し続けてほしい。SAFLANも尽力した「子ども被災者支援法」もインパクトがありました。
福田
立法に向けたロビイングは画期的な動きでした。でも、支援法に基づく具体的な施策を求める点では、イマイチな成果に終わっています。
栗田
次は何を目標にするべきか明確な話し合いが必要ですよ。JCNや支援団体、弁護士などの専門家、それに当事者も交えて今後の支援策を考えていかないと。
地域ごとの広域避難者支援ミーティングが、思いをもって続けている仲間の再確認の場になっているように感じます。現場のあれこれや今後のことを言い合える場があるのはすごく大事。罪のない人が翻弄されている事実から目を背けるわけにはいきませんから。


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