中国地方で支援にかかわり、感じること
中国5県支援ネットワーク会議の松岡です。震災から5年になる今、中国地方で支援にかかわり、感じること。支援の現場の周辺でさえ、避難者・移住者(以降、避難者)の状況や思いが伝わりにくいことがあるのではないかということ、これに影響しているのかもしれないと思われる4つの要因について書きます(*1)。
1つ目は、支援者と避難者のパワーバランス。避難者は、震災や避難・移住の影響で、心理面、社会面(人のつながり)、経済面等、あらゆる面で弱くなっている状況のため、どうしても立場が弱くなるのに加え、「受け入れていただいているのだから」という遠慮など、言いにくさを感じることがあります。支援者と避難者の年齢差、性差によるパワーバランスもあると思います。
2つ目は、中国地方は被災地から距離が離れているため、被災地から近い避難先におけるより、避難者をとりまく複雑・特殊な事情(*2)や、食に対する心配(*3)をご理解いただきにくいこと。避難元が関東等、被災地から離れた地域であるほど、避難の理由への共感を得にくいのは、今回の災害ならではだと思います。
3つ目は、コミュニケーションにおける東日本と西日本の?文化の違い。「言いたいことは、はっきりと言うべきだ」という声を、東日本より西日本で多く聞くような印象を私は持っています(*4)。
支援されている立場では、事を荒立てないためなどの理由で、強く言えない場合がありますし、本当に助けを求めている方は声を上げられないこともあります。支援される側も思いを伝えるための努力が必要ですが、支援者からも「相手が言いにくい思いを抱えているかもしれない」と寄り添いたいものだと思います。
4つ目は、セカンダリートラウマ。先日、一般社団法人 日本ソーシャルセラピストアカデミーの志村友理様によるクライシスカウンセリングの講演会で、このことを知りました。被災によるPTSDで元々あった心理的な傷が表面化して、自分や他人を攻撃するようになり、それが伝染する。その結果、人間関係が壊れたり、攻撃先となった方が傷ついてしまったりするということです。
攻撃が自分に向くと、メンタルトラブルが起こりやすくなり、他人に向くと、特定の人に対して共依存になったり、攻撃的になったりすることもある。そして攻撃を受けた方が別の方を攻撃する、というように伝染しやすいそうです。
攻撃は特定の人に向かうため、周囲からは「あの人が攻撃的なことをするはずはない」と理解されず、攻撃を受けた方の心や、支援の場の人間関係が壊れてしまう。このような事例が多くあるとのことでした。
この影響で支援者が余裕のない心理状態になり、相談を受け止めきれなかったり、避難者に攻撃の矛先が向いたりすれば、避難者は安心して相談できないでしょう。支援者は、支援に携わる動機や初心を忘れずに、カウンセリングや支援者に起こりがちな心の状態についてきちんと学び、健全な心理状態で支援できるよう、心身をメンテナンスする必要があると改めて思いました。
実際は、前述した複数の要因が重なる事例も多いと感じます。避難者とのコミュニケーションにおいて、このような要因による問題があったとしたら、これらを認識し、解決しようとする意識がなければ、どのようになるでしょうか?
避難者は予期しなかった厳しい経験をしており、悩みを抱える方も多くいらっしゃいます。そのため、思いを表現して受け止めてもらいながら気持ちや考えを整理したり、発言を否定されることのない場で、安心して交流できる機会が求められています。
思いやその方がおかれた状況などを伝えるのは、心の健康のためだけではなく、避難・移住に関するわかりにくい事情を避難先の方にもご理解いただき、地域に根付いて生活していくためにも、必要だと思います。それにもかかわらず、十分に伝えられないことがあるのではないかと見受けられる現状。問題の深刻化に拍車がかからないことを願わずにはいられません。
支援の現場では、複数の要因が絡んで深化した、簡単には解決できない問題に直面することも多くあります。避難者も支援者も、自分の考え・やり方に固執するのではなく、「本当はどのようにありたいのか」、支援者は「自分はどうして支援にかかわるのか」という原点に戻り、お互いの思いや状況を理解し合えるよう歩み寄って、問題解決に向かえればと思います。
*1 この記事では、支援活動における課題ではないかと個人的に感じることを書きました。記載したようなことがどれくらいあるのか、何が要因なのかなど、客観的な調査が必要かと思います。
*2 岡山で相談事業を行っていると、他県に避難した後、岡山に転居される方など、避難・移住を希望される方が、今でも多くいらっしゃいます。「うけいれネットワーク ほっと岡山」には、これから避難・移住される方からの相談が2014年度は延べ230件以上、2015年度も延べ120件ほどありました。同じ県内にいても、事故後、早くに避難・移住し、避難生活が長期化している方と、避難・移住したばかりの方では、おかれた状況、抱える問題の種類・質に違いがあります。岡山では関東からの避難者が6割以上を占めるという点でも、被災地から近い避難先と異なります。避難元や避難先の違い、食生活等、災害の影響に対する考えや、避難・移住が家族か母子か単身かの違いによる問題、情報が行き渡らないこと等による支援の不均等、避難と捉えるか移住と捉えるかの意識の違いもあります。
*3 避難先で他の人と理解し合い、人間関係を構築するのを妨げる要因として、食に対する意識の違いもあります。地域のこども会などで提供される飲み物やお菓子を口にすることに、不安を感じる方もいらっしゃいます。そのような方にとっては、会話を円滑にするはずの飲み物やお菓子が、その会に足が向かなくなる原因となり、人との交流から遠ざかってしまうことになり得るのです。
*4 西日本に避難・移住した複数の方から「(避難・移住先でのコミュニケーションは)外国でのコミュニケーションと同じ。察してもらうことを期待してはならず、はっきり言わなければ伝わらない」、「東日本では言い訳は格好が悪いというイメージがあるが、西日本ではそうではないようだ。言わなければ、誤解されてしまう」という意見を耳にすることがありました。